カテゴリー別アーカイブ: 書評/Review

【書評】ちはやふる 1~8巻

ちはやふる 1~8巻を読み終わった後の感想です。ネタバレなしです。

「ちはやふる」、競技かるたを題材にしたマンガです。各所で「このマンガは面白い!」と評判があり、ずっと気になっていました。

競技かるたは私達が想像するかるたという優雅で文化的な活動ではなく、競技かるたはスポーツでした。畳の上の一瞬の激しい攻防、札の配置を意識した頭脳戦は一見の価値有りです。

ヒロインのちはやも熱血でまっすぐでとても魅力的です。他のスポーツマンガの主人公にそのままなれそうなちはやです。

「ちはやふる」は長々と説明するものじゃなくて「面白いからとにかく読んで!」と勧めたくなるマンガです。私は1~8巻まで2日で読んでしまいました。良い漫画です。久しぶりに絶賛したくなるマンガです。お勧め!

【書評】とめはねっ! 4~6巻感想

とめはねっ!4~6巻のネタバレなしの感想です。

帯をギュッとね!」のように明確な勝ち負けのない文科系の活動ですが、徐々に専門的な内容を学んでいく縁と望月さん。6巻では日本一となった高校生達の作品を見るために大阪まで行きました。書道の世界って奥が深く、知らない事だらけです。日本一になった書道部の活動内容には特に度肝を抜かれました。そしてそんな知らない世界を紹介してくれる「とめはねっ!」は読んでいて面白いです。

また部活動以外では縁にも望月さん以外のガールフレンド候補?や望月さんに小学校時代にラブレターを送った幼馴染の彼も登場して盛り上がってきました。「帯をギュッとね」の時には気付きませんでしたが、河合克敏の描く女の子はとても可愛いです。望月さん、2年生の加茂ちゃんと三輪ちゃんコンビが特にお気に入りです。

縁はこの魅力的な女性キャラ達のせいですっかりと印象が薄くなっているので、今のままだと望月さんとの幸せな結末は無理でお友達で終りそうな予感がします。「とめはねっ!」は物語がどういう風に終わらせるかも期待しています。

【書評】失敗学 失敗を個人の責任にするのはもう止めましょう。

失敗学を簡単に説明すると、「失敗やミスをやらかしても、それをきちんと省察することによってその後に活かそう」という考え方の事です。至極当たり前のことのようですが、これが時には難しく実践出来ていません。ましてや組織単位で失敗学を実践しようとすると、体面を重視する日本人には、まず失敗を隠蔽しようという真理が働いてうまくいかないです。

「同じ失敗を繰り返さない、失敗を活かすための考え方。」、一見ごくまっとうな考えのように思えるかもしれません。でも失敗学を学んだ私には、日本の多くの組織においてこの失敗学が全く実践されていないように思えます。

以下、失敗学を活用するための3段階の手順です。

  1. 人は必ず失敗する。人は失敗をやらかすものである事をまず認める。
  2. 失敗を隠そうとするのは自然の真理。だからこそ失敗が表に出てくる仕組みを作ること。
  3. 個人を責めるのではなく、失敗を繰り返さないための仕組みづくりをすること。

まず「人は失敗をやらかすもの」について。失敗をゼロにすることは、もちろんそれが実現されれば理想であり、究極の目標として掲げる分には結構です。しかし、残念ながら神ならぬ私たちは、常に100%の状態ではいられません。そして人は必ず失敗を犯すのだから、「人は必ず失敗するという事実を認める」必要があります。これは簡単な事に思えますが、ほとんどの人が出来ていません。例えば、あなたが職場で失敗をすると猛烈に怒ってくる人もそうである場合があります。何の対策もなく「注意しろよ!」というだけの人とかがそうです。こういう人は失敗をただ単に不愉快なものであるとみなし、失敗が起きたという事実を直視出来ていません。

「人は必ず失敗する」という事実を認めたら、次に「失敗を隠そうとするのは自然の真理」ということも理解する必要があります。誰でも精神的苦痛を味わいたくないのです。とくに、往々にして失敗の原因究明とその解決よりも責任追及に走りやすい日本の会社では、何か失敗をやらかしたとき、それを知られたくないと考えるのは自然なことです。ですから、人に指示を出す立場にある人は、ミスを隠そうとするのは人間の自然の行動であるということを肝に命じなければなりません。そして怒鳴りたくても、組織のためにグッと我慢してことに対処しなければいけません。管理職とは本来このように辛いものです。

以上の2つの事実を踏まえた上で「失敗を繰り返さないための仕組みづくり」をする必要があります。人は失敗をやらかすものであり、犯人探しや責任追及は隠蔽体質を生み、かえって原因究明を遅らせます。そうであれば、“失敗を憎んで人を憎まず”、失敗が起こり得る仕組みの側に注目し、仕組みを改善・改革して失敗の根を絶つ必要があります。

日本でこの「失敗を繰り返さないための仕組みづくり」が出来ている組織はどれだけあるのだろうか、ということを考えるといつもため息をつきたくなります。私がこれまで経験してきた多くの日本の組織では失敗を全て「個人の責任」にして、その失敗がなぜ起きたのか、「失敗を引き起こす組織の問題点」について考えない人々に、本当にうんざりするくらいに多くの人々に私は出会ってきました。失敗は個人の努力や記憶や注意力に頼っている限りは決してなくなりません。失敗をなくすための仕組みを考えるという創造的な思考活動によってのみ解決する事が出来ます。失敗は個人の能力に頼っているようでは決してなくならない。また、失敗をしない何でも出来る素晴らしい人材はいつまで経っても現れません。そんな子供じみた英雄願望は一刻も早く捨てて下さい。この事を認識することではじめて新たな発展が望めます。

そして昨日の鳩山首相辞任のNewについても失敗学の観点から記します。4年間で5人も首相が交代する日本政界の問題は、それぞれの首相達に問題があったからとは私には思えません。首相が辞めざるをえない仕組みが問題なのです。そしてこの仕組みを改めない限り、次の首相も1年で辞めることになるでしょう。短期間で国の代表がころころと変わることは日本の国益を大きく大きく損ねています。私達はもはや特定の政治家の誰かを非難している場合ではありません。「首相が4年間の任期を全うすること、そして任期期間中に効果的な政策を実行できること。」この当たり前のことがなぜ出来ないのかを問題として理解すること、そしてその原因を取り除く必要があります。仮にすべての点が素晴らしい理想的な政治家が首相になっても、今のままでは1年でまた引きずり下ろされます。

失敗を誰か特定の個人のせいにし続ける限りは、これからも同じ失敗は起こり続けるでしょう。そして多くの失敗は本来防ぐことが出来た失敗です。失敗が隠蔽されることなく、また個人のせいにするのではなく組織として対策をしていれば、本来防ぐことが出来た失敗は本当に数多くあります。

失敗学が全く実践されていなかったために起こった最悪の事故の1つは運転士と乗客を合わせて107人の死者を出した「JR福知山線脱線事故」です。この事故も失敗がなぜ起きるのかという組織としての問題点を無視して、あくまで運転手個人の責任として処理していたために発生したのです。失敗学を学んだ私から見ると、JR西日本でこの事故が起きたのは必然としか思えません。そして、JR西日本が未だにこの体質を改めていないということであれば、いつかまたこのような事故が起こることでしょう。

他にも例えば、劣悪な労働環境も失敗を直視しないことから発生しています。失敗を個人のせいにして、組織の問題点が全く改められない。だからいつまで経ってもみな同じ失敗を繰り返し続ける。そしてその失敗を挽回するために果てしない長時間労働をし続ける。失敗学が実践されていない、そんな学習しない組織で働く人々は本当に不幸だと思います。人事が間違っていない、かつ教え方がしっかりとしている。そういう場合は、ほとんど全員が業務で60点の出来には到達出来ます。社員を及第点まで到達させる事が出来ない組織は駄目な組織です。部下が仕事が出来ないのは十中八九、上司と組織の責任です。

これまでに紹介してきた失敗学は日本ではまだほとんど根づいていません。そして、私達はいつまで同じ失敗を繰り返し続けるのでしょうか。失敗学を学んだ身としては、この現状が本当に歯がゆいです。この記事で紹介している考え方、失敗学(≒経営学)の考え方というのは日本だとまだ新しい考え方なので、それほど知られていません。特に年輩になればなるほど、また若い人でも本を読まない人達はこの記事で紹介している「失敗学」の考え方は微塵も知らない人が多いです(特にいわゆる「体育会系」と呼ばれる人達)。せめて私達は現在日本にある悪しき風潮、「失敗を個人のせいにしていつまで経っても学ばない」という根絶すべき悪しき風潮をこれ以上後世に伝えないようにしていきましょう。

この記事を書くに当たって参考にした書籍

  1. 失敗学のすすめ (講談社文庫)
  2. 「失敗をゼロにする」のウソ [ソフトバンク新書]

はじめて失敗学の本を読みたい人は1の「失敗学のすすめ (講談社文庫)」がお勧めです。また、私はこの記事を書くに当たっては2の「「失敗をゼロにする」のウソ [ソフトバンク新書]」から多くの文章を引用しました。2も読みやすいのでお勧めです。

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【書評】3月のライオン 家族の絆と棋士の世界

ネタバレなし、3月のライオンの1~4巻の感想です。

主人公の高校生棋士、零が静かで内向的な性格だからか、3月のライオンは静謐さが感じられる物語。少年漫画「ヒカルの碁」の熱い展開とは、対称的に静かなマンガです。ただし静かな作品と言っても、登場人物達の多くはプロ棋士達なので緊張感ある描写が数多くあります。私は彼らのように真摯に、愚直に高みを目指す登場人物達が好きなのでこういう作品は好きです。

また、プロ棋士の世界と対称的なのが下町に住む3姉妹達。彼女たちが現れる日常の暖かい世界が、プロ棋士の苛烈な世界をより際立たせます。あと愛すべき主人公の”親友”、二階堂君。彼はなんて熱くておせっかいで素敵なキャラなんだろう。二階堂君は人気あるんだろうなと思った。

3月のライオンで作者が描きたいのは「棋士の世界」と「家族」のどちらだろう。物語序盤は「家族」の描写が多かったが、零が研究会に所属した辺りから「棋士の世界」がより重きを持って描かれていると思えた。そしてそんな苛烈な世界である意味で繊細な零はやっていけるのかな。零も島田八段のように胃痛が持病になりそう。

同じ作者の「ハチミツとクローバー」が好きな人、特に竹本君が好きな人にはおすすめの作品です。

【書評】うさぎドロップ 5~7巻 もどかしい距離感

(ネタバレはないです)5巻~7巻までまとめて読みました。5巻からは時計の針が10年進み、リンが高校一年生になった所から始まります。リンとコウキ、ダイキチと二谷さん(コウキの母親)、そして7巻からはリンと母親との関係に焦点がおかれて物語は進みます。作中ではお互いを想い合っているのに、色々なことが積み重なって、一緒になることができない人たちがいて、その距離感がもどかしい。こういうままならないのが現実だよなと思いながら、しんみりとした気持ちで読んでいました。

舞台設定の特殊さが目立ったリンが子供の頃と違って、5巻からは物語に深みが出てきたと思います。続刊にも期待。

New York公共図書館 未来をつくる図書館

「科学、産業、ビジネスの分野でニューヨークは世界の中心的役割を果たしています。図書館建設には莫大な資金がかかっていますが、我々が得られるものに比べれば些細なものにすきません。」ジュリアーニNew York City前市長【未来をつくる図書館】

かつて『ニューヨーカー』誌は、「自由の女神がニューヨークへの到着を歓迎する象徴的な門であるならば、図書館は移民たちがその可能性を伸ばすことができる場である」と書いている。【未来をつくる図書館】

私はこの本を読むまでは図書館は「無料貸本屋」だと思っていました。しかし本書をを読んで、図書館が持つ多様な可能性に気付く事が出来ました。そんな図書館の可能性を感じられる本書で紹介されている様々な事例をこれから紹介していきます。最初に一つだけ断っておくと、「未来をつくる図書館」で紹介されている図書館はNew York Public Library(ニューヨーク公共図書館 略称 NYPL)という市民が運営する”NPO”です。この図書館は国や州が運営している訳ではありません。

本書の冒頭から早速驚かされたのは「図書館から起業家が生まれる」ということです。ゼロックスのコピー機はNYPLから生まれたと冒頭で説明がありました。ゼロックスの他にも多数の起業家がNYPLから輩出されています。考えてみれば、大学発の起業家は珍しくありません。大学と同じように「知識が集まる図書館」から起業家が生まれるのも十分あり得る事だなと今は思います。でも、この本を読むまで思いつきませんでした。盲点でした。NYPLには古今東西の書籍、資料、Dataが集まっています。それらの人類の英知を上手く活用すれば、本当に多様な事が出来る。図書館というものは私達が考えている以上に、実は凄い可能性を秘めているのではないでしょうか。

他にNYPLの一つの特徴として、情報を管理する優秀な司書(修士の学位を持つ)がいて、図書館にある各種資料を利用者の必要に応じて提供してくれます。また、利用者が図書館を効果的に利用できるようになるために、たくさんの講座を開催しています。 そして、 新しい事業を始めるのには詳細で高度な情報が欠かせません。しかし、大学や大企業などの機関に所属していない人達は大規模なDatabaseを利用する機会がありません。そういった人達にデータベースを提供して事業に役立ててもらうために、NYPLはDatabaseを一般の人達に開放しています。

図書館が主催する講座の参加者の一人に、19歳の時にメキシコから移民してきたという32歳の男性がいた。彼は図書館の本やデータベース、インターネットなどを活用して情報収集を行い、各種講座も受講して起業準備を勧めていた。【未来をつくる図書館】

調査の際には「潜在的な顧客の把握」「競合企業の調査」「ビジネスを行う州の状況把握」といったポイントを絞って調査することが提案され、それぞれに応じた本やオンラインの情報源がリストアップされ、戦略的な調査法もまとめられている。【未来をつくる図書館 41頁より】

図書館という公共的な場でビジネス支援というのは最初は違和感があったが、ビジネスを行うためには情報収集は不可欠であり、とりわけ大企業に比べて情報環境が遅れがちな地元の中小企業や個人経営者をサポートするのは、理にかなっていると思えるようになった。【未来をつくる図書館】

組織から離れて活動するこうした人々こそ社会を変えようという意識も人一倍強く新しいアイディアで社会を活性化させる格好な人材であると感じた。そして、こうした人達に情報へのアクセスを保証し「オフィス・スペース」を提供する図書館は実は非常に重要なインフラかもしれないと考えるようになった。【未来をつくる図書館】

科学産業ビジネス図書館(SIBL)には「中国で帽子を製造して輸出するビジネスをしたい」といった漠然とした質問にも懇切丁寧に答えてくれる司書が存在していて、実に心強い。【未来をつくる図書館】

アメリカで司書というのは、大学院で図書館学を学び修士号を修めた人を指し、日本に比べるとより実践的で専門的な教育を受けている。(だから起業についても助言が出来る)【未来をつくる図書館】

情報というのはBusinessにおいて強力な武器に成り得る。この情報を図書館が市民に提供するということであれば、その武器を使って起業する人達が生まれるのも頷ける話です。正直言って、NYPLの一連の試みを読んで圧倒されました。興味深い内容が多かったので引用をこんなにもたくさんしてしまいました。そして、日本で「図書館発の起業家」というのは私は聞いたことがないのですが、どなたか知っている方はいらっしゃいますか。もしいらしたらこの記事へCommentをお願いします。

知識が集まるNYPLが貢献するのは企業活動だけではありません。芸術にも同様に貢献しています。古今東西の芸術作品、例えば舞台芸術の記録(過去の映像資料/音源、脚本家直筆の脚本)が残されているため、温故知新という言葉通りに、図書館に残る過去の素晴らしい芸術作品を参考にすることで新しい発想を生み出し、新たな芸術作品が生まれるのです。

またNYPLはアメリカ同時多発テロの際にも活躍しました。テロの事件報道一色のマスメディアとは一線を画した市民のための情報を提供し続けたのです。

NYPLはテロの翌日にはWebsiteに「緊急電話番号リスト」を公開。項目には、病院、警察、災害支援団体や市の緊急用窓口、世界貿易センタービルにオフィスを持つ金融機関などの一覧、病院、学校、公共交通機関や空港などその他交通機関の運行情報、献血、寄付、ボランティア、保険な喉各種相談窓口などの案内情報が掲載された【未来をつくる図書館 91頁】

その後の「炭疽菌事件」が起こった際にもNYPLは素早く対応した。生物兵器によるテロとは何か、その対処法や、関連書籍リストやリンク集をただちに作成したのだった。【未来をつくる図書館 97頁】

これらの迅速で素晴らしい対応には唸りました。手元にある情報を活かして、いままさに市民が必要としている情報を図書館が提供したのです。豊富な情報が手元にあり、それらを上手く活用・紹介出来る人達がいれば、これほど市民のために素晴らしい情報提供が出来る。一連のテロ行為への対応を知って、図書館が持つ可能性を感じました。他にも紹介したい事例は山ほどあるのですが、それは実際に本書を取ってご確認ください。他の事例としては医療情報の提供、児童教育、高齢者・障害者に向けたService、英語が出来ない移民たちへのServiceなどなどたくさんあります。

ここで本書で私が最も印象に残った事例の1つを紹介すると、それは「ハーレムHarlemの大気汚染」を打開するためにNPOが取った行動です。「Harlemでは、ぜんそくが原因による死亡者多いのではないか」という疑問からあるNPO団体は調査を始めました。しかし、マスメディアには市民が社会問題を調べる素材となるような情報がほとんど存在していなかったのです。これはInternetと同じです。「専門的」かつ「少数の人にしか需要がない」、そのような情報はNet上には今でもほとんどありません。しかし、国や行政を動かすにはこういった「入手が困難な、客観的で専門的な情報」が必要なのです。

ここでNPOが情報収集や資料作りに活用したのは、地域の公共図書館でした。彼らは図書館から得られたInternetやマスメディアでは取り扱っていない「専門的で客観的な情報」を元に資料を作成し、州知事や市長、地元住民や一般市民らに現状を知らせ、行政を動かしたのです。彼らの活動はNPOにとっていかに情報収集と情報活用能力が重要であるのかを再確認させてくれました。声高に感情的に叫ぶだけでは、個人を動かすことは出来ても、国や大企業は動きません。彼らを動かすためには「専門的で客観的な情報」が必要なのです。紹介したNPOは図書館を活用してこの「専門的で客観的な情報」を入手出来たのです。

ここからは国や州ではなく市民が運営する”NPO”としてのNYPL, New York Public Libraryの紹介をします。NYPLは日本人の多くが想像するNPOとは大分違います。資金集めのための営業部、図書館のブランドイメージを向上させるためのマーケティング部、市民との対話を行う広報部があるのです。このように大企業と遜色ない組織です。

ナスダックより寄付金を受けるニューヨーク公共図書館のスタッフたち。企業からの寄付は重要な財源だ。【未来をつくる図書館】

図書館の前理事長は社交界にも顔が広い資金集めの達人で、二年間で$3億5000万(約320億円)をあつめるという偉業を成し遂げ、最終的には目標額をはるかに超える資金を集めることに成功した。【未来をつくる図書館】

ニューヨーク公共図書館はニューヨークに多数進出している日本企業から資金提供をしてもらおうと、スタッフを日本語教室に送り込み、各社をまわったことがあったという。けれども「日本企業は、一般的に社会貢献の意識が希薄で、なかなか協力が得られませんでした。結局、投資に見合わなかったので日本企業からの寄付は諦めてしまいました。」と広報担当者は苦笑する。【未来をつくる図書館】

ニューヨーク公共図書館の事業開発部が資金調達に奔走するのに対して、図書館のイメージを魅力あるものとして広く伝えていくのが、コミュニケーション&マーケティング部の役割だ。部長をつとめるナンシー・ドナーは、過去5年間に国内外のメディアによる図書館の報道を倍増させた実績を持ち、アメリカ広報協会やアメリカ図書館協会などをはじめ数多くの賞が贈られている。【未来をつくる図書館】

コミュニケーション&マーケティング部のドナー部長たちは、なるべく経費を使わずにメディアで取り上げてもらえる方法に常に考えを巡らせているため、高くつく広告費を節約して、少ない予算で最大の効果をもたらすような知恵が求められる。【未来をつくる図書館】

どんなに素晴らしいことをいくら行っても、それが市民に理解されるように伝わり、さらなる行動を喚起するものでなければ決して十分とは言えない。その意味でも、図書館について広くメディアに取り上げてもらい、その確固たるイメージを保つために目に、最新の注意を払いつつ戦略的に行動するスタッフの努力は、ニューヨーク公共図書館のブランド作りに大きく貢献している。【未来をつくる図書館】

NPOに関わる人ならFundraising(寄付金集め)という言葉に馴染みがあると思います。NYPLはそれを大企業に負けず劣らずの規模で行い、2年間で約320億円も集めたのです。日本人が考えるNPOとは規模が段違いである事がこの例から良く分かるのではないでしょうか。そして、市民から寄付を募るために、市民の役に立つServiceを提供し続ける。そしてもらった寄付金によってさらに良いServiceを提供するようになる。NYPLでは良い循環が生まれています。ただ、最近は不景気の影響で寄付金集めが難航しているらしく、公式Webpageが凄いことになっています。どのように凄いかは自身でご確認ください。資金集めのこの危機感も国や州が運営しないNPOらしいなと思いました。

「知識は力なり」です。図書館に集まった知識を活用するために、様々な専門家が集うNYPL。そして専門家が集めた知識を利用して、起業・芸術・教育と様々の面から自分たちを高めるNew Yorkの市民たち。本書を読んでいて、図書館が持つとてつもない可能性を感じました。基礎知識のない人が応用的な事を出来る訳はありません。InputなくしてOutputなし。学ばない人間達が創造的な事は決して出来る訳無い、逆に新たな知識を図書館で学ぶ事でこれほどの可能性が生まれるかのかと「未来をつくる図書館」を読んでいて感心し続けました。そして、知識を重視しない社会は本当に駄目だ。知識を重視する社会と競争なんて出来る訳がない。日本ももっと専門家/専門知識を上手く活用出来るような社会にならないと負け続ける。本書を読んでいて息苦しいくらいの危機感を覚えました。

NYPLと日本との最大の違いは、日本は図書館に知識を集めても、それを上手く活用出来ていないことです。図書館に集まった知識を市民が活用しやすいように加工して提供する専門家が日本では不足しているのです。私は営業職を経験しているので、いくら素晴らしい製品/Serviceでもそれが相手に理解されなければ、全く相手にされない事を身を持って体験しています。例えば、私が公開している英語学習法「実用的な英語を習得する方法」も、読者に理解されるように私が加工して情報を提供しているため、数十万人に読まれて、電子書籍化の話も来ました。Internet上には私よりも英語力がある人は本当にたくさんいます。でも、彼らは自分たちが持っているその知恵を上手く伝える方法を知らない人がほとんどです。だから英語力は劣っていてもその知恵を伝える方法を知っている私が、彼らの代わりに注目されたのです。これは日本の図書館も同じです。素晴らしい知識が集まっている。でも、ちゃんとその知識が活用されるようになっていない。だから人々は知識を活用出来ないのです。日本の図書館がもっと市民に活用されるために、どうすれば良いのか。そういう事を本書では考えさせられました。「無料貸本屋」という地位に日本の図書館と留めておくのはあまり勿体無いです。NYPLのような公共図書館を充実させれば、日本でも以下の5項目が可能になります。

  1. 組織の後ろ盾をもたない市民の調査能力を高める。
  2. 新規事情の誕生を促し、経済活動を活性化させる。
  3. 文化・芸術関連の新しい才能を育てる。
  4. 多様な視点から物事を捉え、新たな価値を生み出す。
  5. コンピュータを使いこなす能力をはじめ市民の情報活用能力を強化する、といった効果をもたらすであろう。

図書館の様々な可能性を知ることが出来る「未来をつくる図書館」は本当にお勧めです。是非手に取ってみて下さい。そして、この記事の下書きをTwitter上で書いている際に、日本の図書館に関連する様々な面白い情報が集まったのでそれら情報は次の記事、【補足】日本の図書館の最新の便利なサービスについてで紹介します。この記事に引き続き読んでみて下さい。

最後に、私が撮影したNew York Public Libraryの写真を掲載します。

【書評】働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法

家族を幸せにするために一生懸命働いてるんだ、家のことや子育てが出来ないのは仕方がない、っていうのが夫の言い分。日本人はいつまでこんな働き方をするんだろうね。うちの息子は、俺は絶対に英語を話せるようになって海外で仕事をするって言ってる。父親の姿を見た結果がこれだよ?哀しいよね。 Twitterへ

本当に気の毒に思うからなんとか考え方を変えてほしいと思って仕事ばかりでなくもっと家族のこともちゃんと考えた方がいいよってずーっと言ってきたけど、本人からしたら考えてるから仕事してるんだろ?って考えだから全然ダメなんだよねー。 Twitterへ

「働き方革命/駒崎弘樹」は病児保育・病後児保育のNPOフローレンスの運営が書いてあるのかと思って購入したのですが、全然違いました。この本は仕事の効率性追求を教えてくれる本、もっといえば「仕事」という従来の考え方そのものを解体してくれる本でした。1日10数時間働く長時間労働者、特にこの記事冒頭で紹介した「夫」のような人にこそこの本を読んでもらいたいです。

1日10数時間働く長時間労働者は往々にして「どの仕事が本当に重要か」「何のためにこの仕事をしているのか」という事を考えず(考えさせてもらえず)に仕事をしている人が多いです。そしてそういう長時間労働者は知らないと思いますが、本当に重要な仕事に集中して取り組めば1日8時間労働でも、ダラダラと1日14時間働いている人以上の成果を収めることが出来ます。そう、無駄な仕事を削減すれば、労働時間は短縮出来る。「すべての仕事が大事」なんて事を言っている人間に仕事改革、決められた時間内に成果を出せる仕事なんて出来るわけがありません。

この本を読んでいて、無駄な資料をたくさん作っていた過去を思い出して、苦い思いになりました。誰も読まないし、重要でもない資料を何日も深夜まで残業して作っても、結果何も変わりませんでした。あの会議資料も私に任せてくれれば、作成・情報共有の手間を十分の一以下に出来る資料に作り変えることが出来ました。でも、20代に何の権限もない大企業だとそういう事を言う発言権すらありませんでした。そしてまた、他の人達はみな目先の仕事ばかりして、考える事を放棄していました。周りから非難されないように・波風を立てないようにするために、長時間労働をしていました。だから長時間働いても本当に重要な仕事をしていないため、利益につながる事はありませんでした。

仕事の生産性を追求する点で、「働き方革命」と「デッドライン仕事術/吉越 浩一郎のやり方は同じです。まず働く時間を強制的に減らす。働く時間を減らされた社員は時間内で仕事を終わらせるために、それまで使っていなかった頭を使って仕事で創意工夫を始めて仕事の生産性を高める。人間は制約が無いと工夫をしないのです。他にも本書の中では具体的にどうすれば労働時間を減らすことができるか紹介されています。本書は「デッドライン仕事術」同様に仕事効率化のためになる本です。

1日10数時間働いていた著者はまず仕事の時間を減らし、午後6時に退社するようにします。こうすることで、本当にやるべき重要で大切な仕事は何かを意識せざるをえなくしました。朝から夜遅くまで仕事に明け暮れる著者は、当初仕事ばかりをしていて「自分にとって大切なこと」をほとんど全て見失ってしまいます。そして、一度見失った後に「自分はいったいどういう風に働きたいのか?」と仕事の再定義を開始します。かつての著者同様に朝から夜遅くまで働き、なぜそこまで長時間働いているのか理由を見失っている人は多いと思います。

1日14時間もダラダラと働いている人間は「仕事をしている自分」に満足して創意工夫なんてしません。そして、成果を上げずに長時間働けば「頑張って熱意があるとみなす上司・同僚」がいればさらに悪循環は加速します。例えば、実際に1日14時間働いている営業マンの大半は喫茶店とマンガ喫茶の常連です。平日、山の手線近郊の喫茶店にいけば営業マンだらけです。そして、昼間サボっているから「14時間働いているふり」が出来るのです。

本書を読んでワクワクしたのはベンチャー企業の良さが存分に発揮されていたことです。ベンチャーは「ないないづくし」ですが、一つだけ決定的に良いことがあります。それは「大企業特有の組織内の理不尽で不可解なしがらみが無いこと」です。大企業だと仕事の仕方を一つ変えるために、各所で様々な調整をしなければなりません。そして何かを変えようとする必ずそれに反対してくる「抵抗勢力」の人々がたくさんいます。でも、ベンチャー企業だとそういう手間をかけずに抜本的に迅速に仕事のやり方を変えることが出来ます。

そう、変なしがらみがなくて自分の頭で考えられる人達が新しい仕組みを考えれば、ベンチャー企業でも大企業以上の効率性を発揮することが出来る!著者が導入する様々な仕事の効率性向上の試みには読んでいてワクワクしました。私だって、前職の法人営業を担当していた頃は残業を十分の一にして、成果をそれまでの2倍以上に出来るとずっと考えていました。でも、大企業特有の20代の若手は発言権ゼロという状況だったので、抜本的な改革は出来ませんでした。長時間働いているけど、成果が上がらない人達に本書を読んでもらいたいです。バタビンの人(いつもバタバタしているけど貧乏な人達)は考える事を止めている人が多いですから。

長時間労働をしている人達は新しい分野を勉強する余裕がありません。私の前職では社内には未だにタッチタイピングすら出来ない40代以上の人達がゴロゴロとしていました。そんな彼らがモタモタとしたタイピングで、つまり資料を作るのに長時間かけて仕事をしていました。これ、端から見ると滑稽すぎます。タッチタイピングを覚えれば、資料作成時間は半分に出来るのでは?といつも心の中で思っていました。でも、彼らは長時間労働をしているため、タッチタイピングを覚える時間が無いのです。滑稽な状況です。

私は今でも経営者は1日14~17時間は仕事のために時間を使うべきだと思っています。でも、これは職場にいてひたすら仕事をすべしという事では決してありません。職場で8時間、重要な仕事に集中して取り組む。残りの時間でManagementや最新の業界動向を勉強する、また家族や社員の事を理解するための時間を取る。他にも運動して身体を健康に保つようにする。こういった自分を高めるための努力、自分の能力を最大限発揮するための努力をすべきだということです。「7つの習慣」でいう「重要事項を優先する」「刃を研ぐ」を実践すべしということです。勉強・運動・休息・家族と共に過ごす事をせずにダラダラと働いている人は決して目覚ましい成果を残せません。私は勉強する時間がない人間が競争力を保てたり、差別化出来る訳が無いと考えています。R&D(研究開発)の比率が低い会社がInnovation技術革新を起こせる訳がないのと同じです。この事が本書を読めば分かると思います。仕事ばかりしていて、鼻毛や耳毛が処理されずにボウボウになっている人、BMIが25を越す肥満体の人、家族とほとんど話さない人。そんな人達に本書を読んでもらいたいです。

いま「7つの習慣」の文章を紹介しましたが、「7つの習慣」を読んだことがある人にはまさに著者は「7つの習慣」を実行しているなと思えるはずです。立派な知識や教養を備えているが、それらを十分に活かす知恵を学べなかった人には「働き方革命」と「7つの習慣」を合わせて読んでもらいたいです。

ここから、7つの習慣と関連させて説明すると、第1領域(重要で緊急)と第3領域(緊急だけど重要じゃない)の仕事にばかり気を取られていて、第2領域(重要だけど緊急じゃない)の業務に取り組めない人達。そんな人達が第2領域で考えられるようになる本です。著者もかつては第2領域(仕事の効率化を考える、家族や社員の事を理解するといった事)をおろそかにしている人間でした。だから長時間働いているけど、他の社員や恋人・家族との関係がギクシャクしてまったく上手くいかない人でした。そんな人が書いた本なので「第2領域(重要だけど緊急じゃない事)」を重視せよという本書の内容は説得力がとてもあります。

日本の働き方や社会は他にもたくさんの問題がある「課題先進国」です。でも、その逆境を逆手に取って、斬新なManagementを導入して、目覚ましい成果を出せば競合に大きく差を付けることができる。そんな勇気を本書からもらいました。短時間で仕事の成果を収めたい人、家族や身の回りの人間との関係を大切にしたい人、是非本書を読んでください。

「ピンチはチャンスさ。若い人よ、私らはもう大きな変化を起こす気力はないのだよ。だから貴方たちがこのピンチを機会に変えて、新しい変化を起こして欲しいんだ。分かるかい?」僕は黙って頷いた。【働き方革命 185頁】

本文中で紹介した書籍一覧

この記事に関連する私が過去に書いたお勧めのblog記事米国体験記より)